あの頃、バラの咲く街で

あの頃、バラの咲く街で

第八章

私は社会復帰がしたかった。仕事をしたい。働くことは好きだし、世の中の役に立ちたい。生活保護も早く抜けたい。  だけど、先生はまだ働くのは無理だと言う。  それなら、自宅療養の時間を何か有意義に遣えないかと思った。例えば、就職に役立つような資...
あの頃、バラの咲く街で

第七章

病気が激しくなってから、私は異性関係が荒れていた。  どうでもいい男と意気投合し、翌朝には冷めて別れるようなこともしていた。  別に誰とでも寝たわけではない、キスもセックスもどうでもよかった。心も体も気持ちよくできる人なんてそうそういないこ...
あの頃、バラの咲く街で

第六章

ある時、いつも穏やかな表情で接してくれる先生に、 「どうせ先生には他人事なんでしょう?」  と言ってしまったことがあった。  うつは、健康な人にはわからない。どんなに苦しいのか、本当の意味でわかって貰えない。そう思っていたから。先生だってわ...
あの頃、バラの咲く街で

第五章

人は、節目の時にけじめをつけたくなるのだろうか。世間では、誕生日に自殺する人も多いという。私も、次の誕生日が来たら死のうと思った。そうだ、それがいい。思いついた瞬間は、最初からそう定められていたような気すらした。  それでも心のどこかでは、...
あの頃、バラの咲く街で

第四章

遂に月々の支払いができなくなり、クレジットカードも止まった。毎日のようにカード会社から督促の電話がかかってくる。電話が鳴るのが怖くて、子供たちが家にいる時はなるべく電源を切っていた。  入って来るお金は、家賃にも足りない月2万円の養育費と児...
あの頃、バラの咲く街で

第三章

少し良くなったり、ぶりかえしたりを繰り返しているうちに、いつの間にか気分の波が止まらなくなっていた。躁とうつが混ざったみたい。これをそのまま「混合状態」と呼ぶ。  ストレスが多い日々のせいかもしれないし、わがままを言って出して貰っていた抗う...
あの頃、バラの咲く街で

第二章

病気が悪かろうと、失恋しようと、現実はいつも容赦がない。  とにかく生活費が心配だった。クレジットカードでのキャッシングと親の援助でどうにかしのいでいたが、そんなことがいつまでも続くわけがない。キャッシングは、結婚生活の中で元夫が生活費を入...
あの頃、バラの咲く街で

第一章

札幌近郊のこの街の病院で、私と彼女は出会った。  新年度が始まったばかり、北国では雪が解けきって間もない頃である。  ここに引っ越す前の私は過労からのうつ病と診断されていて、一年ほど投薬治療を受けていた。  三年前に離婚してから、二人の子供...
error: ごめんなさい、コピーできないようにしてあります。