月明かり友花② 水が滴っている英の髪をもう一度拭き直すと、私はドライヤーのスイッチを入れた。 熱すぎないように、手を添えて乾かしていく。「熱い?」 私が聞くと、「大丈夫」と英が答えた。 きっととても疲れているんだろう... 2024.08.15月明かり
月明かり英① 友花が仕事に行ってしまったあと、私は朝のぶんの薬を飲んだ。 一包化された薬は全部で7錠。まとめて口に放り込んだ。 子どもの頃は1つずつでもなかなか飲めなかったのにな、と思いながら、多めの水で流し込む。... 2024.08.15月明かり
月明かり友花① ため息なのか、うめき声なのか。 かすかな声で目が覚めた。 私は体を起こし、英の顔を覗き込んだ。 涙が枕を濡らしている。 また、いつものやつだ。 こうなってしまったら、私にはなすすべもない。「友花……、... 2024.08.15月明かり
あの頃、バラの咲く街で第八章 私は社会復帰がしたかった。仕事をしたい。働くことは好きだし、世の中の役に立ちたい。生活保護も早く抜けたい。 だけど、先生はまだ働くのは無理だと言う。 それなら、自宅療養の時間を何か有意義に遣えないかと... 2024.08.15あの頃、バラの咲く街で
あの頃、バラの咲く街で第七章 病気が激しくなってから、私は異性関係が荒れていた。 どうでもいい男と意気投合し、翌朝には冷めて別れるようなこともしていた。 別に誰とでも寝たわけではない、キスもセックスもどうでもよかった。心も体も気持... 2024.08.15あの頃、バラの咲く街で
あの頃、バラの咲く街で第六章 ある時、いつも穏やかな表情で接してくれる先生に、「どうせ先生には他人事なんでしょう?」 と言ってしまったことがあった。 うつは、健康な人にはわからない。どんなに苦しいのか、本当の意味でわかって貰えない... 2024.08.15あの頃、バラの咲く街で
あの頃、バラの咲く街で第五章 人は、節目の時にけじめをつけたくなるのだろうか。世間では、誕生日に自殺する人も多いという。私も、次の誕生日が来たら死のうと思った。そうだ、それがいい。思いついた瞬間は、最初からそう定められていたような... 2024.08.15あの頃、バラの咲く街で
あの頃、バラの咲く街で第四章 遂に月々の支払いができなくなり、クレジットカードも止まった。毎日のようにカード会社から督促の電話がかかってくる。電話が鳴るのが怖くて、子供たちが家にいる時はなるべく電源を切っていた。 入って来るお金は... 2024.08.15あの頃、バラの咲く街で
あの頃、バラの咲く街で第三章 少し良くなったり、ぶりかえしたりを繰り返しているうちに、いつの間にか気分の波が止まらなくなっていた。躁とうつが混ざったみたい。これをそのまま「混合状態」と呼ぶ。 ストレスが多い日々のせいかもしれないし... 2024.08.15あの頃、バラの咲く街で
あの頃、バラの咲く街で第二章 病気が悪かろうと、失恋しようと、現実はいつも容赦がない。 とにかく生活費が心配だった。クレジットカードでのキャッシングと親の援助でどうにかしのいでいたが、そんなことがいつまでも続くわけがない。キャッシ... 2024.08.15あの頃、バラの咲く街で