花に埋もれてる君を見た。
美しく敷き詰められた無数の白い花。
こんな情景をいつかテレビの中で見た。
加藤刑事は顔をしかめて「悪趣味だな」と呟いた。
「おまえがやったのか」
「僕……僕は」
僕は君を刺した。
ナイフを抜くと、ドレスみたいな白いワンピースに血が溢れた。
今も残ってる。この手にその感覚が。
そして僕は君を床に放り出して逃げたんだ。
自分が夢想していたようには、遺体を辱めることができなかった。
誰かの通報で、僕はすぐに捕まった。
僕が最後に見た時血が流れていたタイルの上には、何故か花が敷き詰められ、血だらけの君がその上に眠るように横たわっていた。
白い薔薇の花。
加藤刑事はもう一度繰り返した。
「おまえがやったのか」
僕は首を振った。
「殺したのは僕だ。でも、僕はこんなことはしていない」
「おまえじゃなければ、誰なんだ? 心当たりはあるのか?」
僕は混乱の中にも、必死に考えた。
そんなやつ、僕は知らない……。
「おまえは彼女のストーカーなんだろ。接近禁止命令は出ていたが、彼女のことなら何でも知ってるんじゃないのか?」
僕の中で、一人だけ、名前が浮かんだ。
だけどそれは……。
遺体が運び出された現場に呼び出され、流海は笑っていた。
白いスーツを着て、白い、大きな薔薇の花束を抱いていた。
「君なのか? 彼女の遺体をあんな風にしたのは」
「あたしはあんたがあの子のストーカーになるよりずっと前から、近くであの子のことを見てきた。ずっと、殺したいほど愛していたわ」
「あんたがあの子を追いかけていたのもすぐにわかった。あの子の味方のふりして、わざと危険なことをさせた。怯えてあたしに頼ってくるのが嬉しかったからよ」
「そして、あんたはあの子を刺した。でも、とどめを刺したのはあたし。薔薇を敷き詰めたのもあたしよ」
「嘘だ」
「あたしはあの子をあたしだけのものにしたかった。だからあたしはその時から、あの子を殺してあたしも死のうと思ってた」
それを聞いて、僕は言った。
「彼女は、君のことが好きだった。だから僕は君を憎んでいた」
今度は流海が、嘘、と唇を震わせた。
「僕はストーカーだからね、彼女を見てきた。彼女が誰を好きか知ってる。何でも知ってるさ。家に忍び込んだこともある。日記を読んだことも」
「……」
「君が彼女を殺すとはね」
流海は俯いていた。
前髪で表情は見えなかった。
流海はポケットから何かを取り出して口に入れ、素早く飲み下した。
「やめなさい!」
加藤刑事が流海に向かって駆け出す。
流海は何も答えず、苦しそうに喉を掻きむしって倒れた。
「救急車を呼んでくれ!」
即効性のある毒のようだ。これでは助からないかもしれない。
見ると、地面に落ちている花束に、流海の吐いた血がこぼれていた。
あたりに花びらが散らばっているのを見て、僕はぼんやりと、自分の執着が終わったことを感じた。