凛恋さんが来て、私は少しはしゃぎすぎた。
それからしばらく、気分が盛り上がったり、不安定になって、友花に心配をかけた。
人並みに楽しむことすらできないのか、と落ち込む。
友花はさりげなく元気づけようとしてくれる。
いつも迷惑や心配ばかりかけていて、もうとっくに愛想を尽かされてもいいような人間なのに……。
調子を崩した時の私は「死にたい」と思うことが多い。
別に構って欲しいからじゃない、友花は充分構ってくれているし、私は単純に苦しくて、疲れ果てていて、死にたいだけなのだ。
その思いは自然と心に浮かんで来て、なかなか消えない。
でも、私は友花に言う。
「大丈夫」
って。
本当は、心の中はあんまり大丈夫じゃないのだが、大丈夫だって言ってしまう。
そうしたら、友花は私を抱きしめる。
私は泣いてしまうのを我慢する。
「死ぬか死なないかじゃなくて、つらいかつらくないかだよ」
と友花は言った。
私にはそんな考え方はなかったから、ハッとした。
そして、感謝するのだ。友花の優しさに。
私の不安定な時期は、短くて済んだ。
また日常に戻っていく。
昔はフラットな時期がなくて、いつも躁かうつかどっちかだった。
だから、ずいぶん回復したと言えないこともない。
友花は意外と患者さんや同僚から言われたことで悩んだり傷ついたりする。
もちろん内容は言わないけれど、何かがあったんだとすぐわかる。
そんな時私は友花を抱きしめる。
いつも甘えさせてもらっているけれど、本来は私がこうするべきだと思っている。私のほうが友花を好きになったのだから。
私は友花のことをどうしようもなく好きだ。
友花がしあわせになるなら、私は消えてしまってもいい。
私は抱きしめたまま、友花の額に口づける。
友花はちょっと笑って、私の顔を見る。
かわいいな、と思う。
いくつになっても友花はめちゃくちゃかわいい。
今日も私はレンにごはんをあげて、散歩に行き、家事をして、友花の帰りを待つ。
忙しい友花は帰りが遅いことも多いけど、できるかぎり待つ。
一緒にごはんを食べたいから。
そして一緒に眠るのだ。
私たちには、いわゆる肉体関係はない。
友花が望むのならば何でもするけれど、そういうことはなくていい、という。
だから、今までで一番近い距離は、軽いキスまでである。
こういう関係ってなんて言うんだろう、って言ったら、友花はいつも、
「夫婦」
と答える。私はそれがおかしくて笑ってしまう。
「私が夫だよ。だって私が友花を幸せにしたいって思ったんだもん」
「私だって同じだよ。英をさらってきたのは私だから」
ちょっと言い争うと、私たちは笑う。
こんな時間がいつまでも続けばいい。
穏やかで幸せな。
「ああ、こんなに幸せだったら躁転しちゃう」
私が言うと、
「大丈夫」
と友花は笑った。
その言葉に根拠はないと思うけど、でも私はうれしかった。
「幸せを感じちゃだめなんて、そんなのおかしいでしょ?」
友花は言う。
私は、その言葉に救われる思いがするのだ。
これが私たちの暮らし。
友花といられる私はとても幸せだ。
彼女がいつか私に言ってくれた言葉。
「幸せは、かならず来るよ」
その言葉を、今思い出す。